証券会社から届く特定口座年間取引報告書を見ていると、「上場株式配当等控除額」という項目が目に入ります。配当金を受け取っている方なら、確定申告のときに「この数字はどこに入れるのだろう」と手が止まった経験があるかもしれません。
この記事の要点
- 上場株式配当等控除額は、特定口座年間取引報告書に載る、配当控除の計算に関わる金額の欄
- 配当控除は総合課税を選んだときだけ使える税額控除で、所得税と住民税の両方から差し引かれる
- 控除率は課税総所得金額等が1,000万円以下なら所得税10%・住民税2.8%、超える部分は半分の5%・1.4%
- 課税所得が695万円以下の目安なら、総合課税のほうが税負担が軽くなりやすい
- 総合課税にすると損益通算や国民健康保険料などに影響が出るため、事前の確認が大切
上場株式配当等控除額とは何か
上場株式配当等控除額は、証券会社が発行する特定口座年間取引報告書に記載される項目の一つです。特定口座(源泉徴収あり)で受け取った国内上場株式の配当金などについて、確定申告で配当控除を受けるときの基礎になる金額を確認するための欄と考えるとわかりやすいでしょう。
確定申告書等作成コーナーでも、特定口座年間取引報告書の内容を入力する画面に「特定上場株式等の配当等の上場株式配当等控除額(合計)」という入力欄が用意されています。報告書の数字を見ながら、画面の案内に沿って転記していく流れです。
ポイント:この欄は「配当金そのものの額」とは別の項目です。報告書の注記や作成コーナーの入力ガイドを確認しながら、該当する欄の数字を丁寧に写しましょう。
そもそも配当金にかかる税金の基本
上場株式の配当金は、支払いを受けるときに合計20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が源泉徴収されるのが一般的です。特定口座(源泉徴収あり)や配当金を受け取る証券会社の口座を利用していれば、これだけで納税が完了し、確定申告をしなくてもよい「申告不要制度」が使えます。
一方で、確定申告をすることを選ぶと、配当金の扱い方は大きく二つに分かれます。
| 課税方式 | 税率の考え方 | 配当控除 | 譲渡損失との損益通算 |
|---|---|---|---|
| 申告不要 | 一律20.315%で完結 | なし | なし |
| 申告分離課税 | 一律20.315% | なし | あり(繰越控除も可) |
| 総合課税 | 他の所得と合算して累進課税 | あり | なし |
上場株式配当等控除額が関わってくるのは、この表のうち総合課税を選んだ場合の配当控除です。
配当控除の仕組みと控除率
配当控除とは、総合課税を選んだ配当所得に対して、配当所得に一定の率を掛けた金額を、所得税額と住民税額から直接差し引く制度です。日本企業が法人税を支払ったあとの利益から配当を出していることを踏まえ、二重に課税されるのを和らげる目的があるとされています。
課税総所得金額等ごとの控除率
| 課税総所得金額等 | 所得税の控除率 | 住民税の控除率 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円以下の部分 | 10% | 2.8% | 12.8% |
| 1,000万円を超える部分 | 5% | 1.4% | 6.4% |
ここに注意:「課税総所得金額等」は、給与や事業などの所得から各種所得控除を引いたあとの金額をイメージしてください。年収そのものではありません。基礎控除や社会保険料控除などを差し引いた結果で判定されます。
対象になる配当・ならない配当
すべての配当が配当控除の対象になるわけではありません。国内企業の上場株式の配当は基本的に対象ですが、次のようなものは対象外とされています。
- 外国株式の配当金(海外での課税は別途、外国税額控除の検討対象)
- 上場不動産投資信託(J-REIT)の分配金
- 信用取引の配当金相当額
- NISA口座で受け取った配当金(そもそも非課税のため)
公募の株式投資信託の分配金については、対象になるものでも控除率が低く設定されているものがあります。投資信託を保有している場合は、種類ごとに扱いが異なる点を確認しておくと安心です。
覚えておきたいこと:NISA口座の配当は課税されない代わりに、配当控除も使えません。課税口座と非課税口座で、税金の考え方が別になっています。
配当控除の計算例
数字で見ると仕組みがつかみやすくなります。二つのケースで試算してみましょう。
ケース1:課税総所得金額等が400万円で、配当所得が40万円の場合
課税総所得金額等が1,000万円以下なので、40万円すべてに10%と2.8%が適用されます。
- 所得税の配当控除:40万円 × 10% = 4万円
- 住民税の配当控除:40万円 × 2.8% = 1万1,200円
- 合計:5万1,200円が税額から差し引かれる
配当所得が40万円あるということは、源泉徴収された税金は約8万1,260円です。総合課税を選ぶと、他の所得と合算した税額から配当控除が引かれるため、課税所得が小さい人ほど源泉徴収された税金が戻ってくる可能性が高まります。
ケース2:課税総所得金額等が1,100万円で、配当所得が300万円の場合
1,000万円を超える部分に配当所得が含まれるため、控除率が二段階になります。
- 1,000万円を超える部分に含まれる配当所得:100万円 → 所得税の控除率5%で 5万円
- 1,000万円以下の部分に含まれる配当所得:200万円 → 所得税の控除率10%で 20万円
- 所得税の配当控除の合計:25万円
住民税も同じ考え方で、100万円分に1.4%、200万円分に2.8%を掛けて合計します。
ポイント:配当所得が課税総所得金額等のどの部分に位置するかで控除率が決まります。所得が大きくなるほど控除の効果は薄まるため、次の章で触れる「有利になる目安」が大切になります。
総合課税と申告分離課税、どちらが得か
配当控除を使える総合課税は、常に有利というわけではありません。判断のカギは所得税の税率区分です。
「695万円」が一つの目安になる理由
配当所得を総合課税にすると、他の所得と合算されて累進税率が適用されます。所得税の税率が上がる一方で、配当控除の率は10%のままなので、実質的な負担は次のように変わります。
| 課税所得の目安 | 所得税率 | 配当への実質負担(概算) | 申告不要との比較 |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | ほぼゼロ〜低水準 | 有利になりやすい |
| 195万円超〜330万円 | 10% | 約10%前後 | 有利になりやすい |
| 330万円超〜695万円 | 20% | 約17%台 | 20.315%を下回りやすい |
| 695万円超 | 23%以上 | 20%台に上昇 | 分離課税のほうが軽くなりやすい |
たとえば課税所得が330万円超〜695万円の範囲で所得税率が20%のとき、配当に対する負担は概算で「所得税20%-配当控除10%」に復興特別所得税を加え、住民税10%から配当控除2.8%を引いた分を足した約17%台になります。これは源泉徴収の20.315%よりも低くなります。
ここに注意:上の表は配当所得のみを考えた概算です。実際には所得控除や他の所得の状況で変わります。「課税所得695万円以下なら総合課税が有利になりやすい」という目安として活用してください。
総合課税を選ぶときに確認したいこと
税額の計算上は有利でも、総合課税にすることで別の面に影響が出る場合があります。
- 損益通算・繰越控除:株式の売却損がある場合、総合課税では配当と損益通算できません。売却損があるなら申告分離課税のほうが合うケースがあります。
- 国民健康保険料・介護保険料:総所得金額が増えるため、保険料の計算に反映される場合があります。
- 扶養や各種控除の判定:合計所得金額が増えると、配偶者控除や扶養控除の適用に関わってくることがあります。
- 所得制限のある制度:児童手当や医療費の自己負担割合など、所得を基準にした制度への影響も見ておくと安心です。
覚えておきたいこと:税額が減っても、保険料や他の制度で相殺されることがあります。総合的に比べるのがコツです。
住民税の課税方式は所得税と統一されている
以前は、所得税では申告不要を選びつつ、住民税だけ別の方式にする方法がありました。しかし令和5年分の所得(令和6年度の住民税)から、所得税と異なる課税方式を選べなくなりました。
確定申告で総合課税を選べば、住民税も同じく総合課税で扱われ、配当控除も所得税と住民税の両方に反映されます。申告分離課税を選んだ場合も同様に、住民税側も分離課税になります。
確定申告をしない場合(申告不要)は、住民税も源泉徴収された税額で完結します。「所得税は申告不要、住民税だけ申告」という組み合わせはできなくなっている点を押さえておきましょう。
確定申告で入力するときの流れ
実際の入力は、国税庁の確定申告書等作成コーナーを使うとスムーズです。大まかな流れは次のとおりです。
- 証券会社から届く特定口座年間取引報告書を手元に用意する(電子交付の場合はダウンロードしておく)
- 作成コーナーで配当所得の入力画面に進み、総合課税を選択する
- 報告書に書かれた配当等の金額を、案内に従って入力する
- 「上場株式配当等控除額」の欄に、報告書の該当金額を転記する
- 他の所得や所得控除を入力し、配当控除が自動計算されることを確認する
- 所得税と住民税の税額を見比べて、申告不要や分離課税より有利かどうかを確かめる
ポイント:作成コーナーでは、方式を切り替えて何度でも試算できます。総合課税と申告分離課税で納税額がどう変わるか、実際に画面上で比べてから確定するのがおすすめです。
複数の口座を持っている場合
証券会社が複数ある場合は、それぞれから年間取引報告書が届きます。総合課税を選ぶなら、すべての口座の配当をまとめて同じ方式で申告する必要はなく、口座ごとに申告するかどうかを選べる場合もあります。ただし、申告分離課税や総合課税の選択は「銘柄ごと」ではなく「証券会社(支払者)ごと」に考えるのが基本です。迷ったときは、事前に税務署や税理士へ相談すると安心です。
株式投資をしている人が押さえたい活用のコツ
ここまでの内容を踏まえて、投資家として意識しておきたいポイントを整理します。
コツ1:年間の所得見込みを早めに把握する
給与所得や他の収入を含めた課税所得の見込みを、秋ごろから概算しておくと、年末に向けて方針を決めやすくなります。特に課税所得が330万円前後や695万円前後の人は、選ぶ方式によって結果が変わりやすい水準です。
コツ2:売却損の有無を確認する
株式を売却して損失が出ている年は、申告分離課税で配当と損益通算すると、源泉徴収された税金の還付を受けられる場合があります。配当控除とどちらが得か、両方の試算を比べてみましょう。
コツ3:高配当株投資では控除の効果を織り込む
配当金を重視した運用をしている場合、課税所得が低い年は総合課税による配当控除で実質的な手取りが増える可能性があります。定年後で給与収入が減った年などは、特に検討の価値があります。
コツ4:NISAとの使い分けを意識する
NISA口座の配当は非課税なので確定申告は不要です。一方で課税口座の国内株の配当は、配当控除の対象になり得ます。非課税枠を活用しつつ、課税口座では控除を活かすという考え方もあります。
なお、配当金の受け取り方式(株式数比例配分方式など)によっては、申告の可否や年間取引報告書の扱いが変わります。受け取り方式は証券会社の設定画面で確認できます。
よくある疑問
確定申告をしないと配当控除は受けられませんか?
はい、配当控除は確定申告(総合課税)をしたときに使える仕組みです。源泉徴収だけで済ませる申告不要の場合には適用されません。
特定口座年間取引報告書の数字はそのまま入力してよいですか?
基本的には報告書に記載された金額を、作成コーナーの案内に沿って入力します。複数の欄があるので、どの欄をどこに入れるのかを画面のヒントで確認しながら進めると間違いを防げます。
少額の配当でも申告する意味はありますか?
課税所得が低い年は、少額でも源泉徴収された税金が戻ってくることがあります。申告の手間と戻る金額を見比べて判断しましょう。
ここに注意:制度の細かい適用条件や税率は、税制改正で見直されることがあります。申告の際は、国税庁や自治体が公表している最新の案内を確認してください。
まとめ
上場株式配当等控除額は、特定口座年間取引報告書に載る、配当控除の計算に関わる項目です。配当控除は総合課税を選んだときだけ使える制度で、課税総所得金額等が1,000万円以下の部分では所得税10%・住民税2.8%、超える部分では5%・1.4%が税額から差し引かれます。課税所得が695万円以下の目安であれば、源泉徴収の20.315%より負担が軽くなる可能性があり、所得の低い年ほど効果を実感しやすくなります。
上場株式配当等控除額の見方と配当控除の計算例|確定申告で迷わないために
報告書の数字は、作成コーナーの案内に沿って丁寧に転記することが第一歩です。そのうえで、総合課税・申告分離課税・申告不要を試算で見比べ、売却損の有無や国民健康保険料への影響も含めて選ぶと納得感が高まります。年間の所得見込みを早めにつかみ、配当控除を上手に取り入れて、手取りを守る申告につなげていきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、金融アドバイスではありません。個別のケースについては専門家にご相談ください。

















